皆さんへ
この度、熊による痛ましい人身被害が発生したことに、深く心を痛めております。
被害に遭われた方々、そしてご家族の皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
皆さんが抱く「被害が二度と起こらないよう、襲った熊は始末されて当然だ」という思いは、共感できます。
人の命を守ることは、何よりも優先されるべき最重要課題であり、学校としても生徒・教職員の安全確保に全力を尽くす所存です。
しかし、同時に私たちは、この悲劇の背景にある複雑な現実にも、目を向け、深く理解する必要があると思うのです。
報道によれば、今回襲った熊の胃には本来の主食である木の実(ドングリ)などがなく、体には脂肪が少なかったとされています。
この事実は、熊が極度の食糧不足に陥っていたことを示唆しています。
なぜ、彼らは生活圏を越えて人里に出てこざるを得なくなったのでしょうか。
その根底には、私たち人間の活動が深く関わっていると考えられます。
1.気候変動による食糧不足
地球温暖化の影響で、熊の主食であるドングリなどの実りが不安定化しています。
凶作の年には、山の中で十分な食べ物を得られず、空腹を満たすために行動範囲を広げざるを得なくなります。
2.開発による生息地の変化
宅地開発や道路建設などにより、熊の活動の場である森林や里山が分断・縮小しています。
また、かつて人間が管理していた里山が放置され、人間と熊の生活圏の「緩衝地帯」としての機能が失われ、両者の距離が近づいてしまっています。
3.人間社会の食べ物への依存
生息地近くのゴミや放置された農作物(カキ、クリなど)、あるいは適切に管理されていない残飯の味を一度覚えると、熊はそれを求めて人里へ繰り返し出てくるようになります。
これは、熊、本来の行動を変え、人間への警戒心を低下させる要因となります。
今回の痛ましい事件は、単に「危険な熊を排除する」という対策だけで解決するものではありません。
「人間の暮らしが、熊の生態にどのような影響を与えているのか」という根源的な問いと向き合い、私たち自身が変わるべき点、行うべき対策を考える必要があります。
私たちがなすべきこと
1.目の前の安全対策
熊を誘引する原因となるゴミや生ごみの適切な管理を徹底し、集落周辺の藪の刈り払いなど、熊が隠れにくい環境づくりを進めること。
2.長期的な視点での共存の模索
・地球温暖化問題への意識を高め、持続可能な社会の実現に貢献する行動をとること。
・開発と自然保護のバランスを常に問い、野生動物の生息地を尊重すること。
・地域社会として、里山の適切な管理や、熊を人里に誘引しないための環境整備に積極的に関わること。
「排除」と「共存」は、一見相反する概念のように思えます。
しかし、真の安全は、恐怖の対象をなくすことだけでは得られません。
私たちが過去にしてきたこと、今、していることが未来の環境にどうつながるかを理解し、「人間と野生動物が安全に棲み分けるためにはどうすべきか」という視点を持つことこそが、最も確実で長期的な安全対策につながると思います。
皆さん、気候危機とも深く関わるこの事件をもとに、私たち一人ひとりが、自然環境と人間の関わりについて深く考え、行動変容のきっかけとする機会にして、持続可能な社会をつくっていきましょう。