高校野球部
第93回全国高等学校野球選手権静岡大会一回戦結果報告
2011年7月27日
伊 東 010 002 000 3
浜松開誠館 000 000 000 0 鈴木(丈)-山口
ベスト8を目標に臨んだ大会でありましたが、惜しくも負けてしまいました。ここまでチームを引っ張ってきた4名の三年生には感謝の気持ちでいっぱいです。ただ、校歌を歌えなかったことがとても残念です。この悔しさを胸に新チームをスタートを切りますが、今までと変わらぬ応援をお願い致します。
【戦評】
春季大会では“試合に臨むまでの過程”が課題としてあげられた。その失敗を生かし、今大会に臨むにあたって、選手たちは練習で緊張感を作り出した。また、打撃も好調で全体的にバットは振れていた。守備でも27アウト無失策をやり遂げ、仕上がりは最高な状態だった。対戦相手の伊東高校との比較も具体的にすべき所だが、“実力さえ発揮してくれれば、負ける要素は何一つない”という感触はあった。試合前に必ず行う、仮想試合では何度やっても負けなかった。負ける要素が思い浮かばないわけだから、当然といえば当然のことだが、選手たちの試合当日の精神状態は私の予想を遙かに超えていた・・・。本当に“まさか”の一言に尽きる。


開誠館はトスで勝って後攻をとった。相手を見くびって後攻をとったわけではない。後攻は普段通りの形なのだ。
一回表、主戦鈴木丈久(二年:篠原中出身)は簡単に三者凡退に仕留め、イメージ通りのいいスタートを切った。その裏、開誠館の攻撃。一番原田光(二年:浜松北部中出身)が四球で出塁する。スコアリングポジションに走者を進め、まず先制点を狙う形を作り、序盤、こちらに流れを向かせる絶好のチャンスだった。しかし、ヒヤリとする牽制があったにもかかわらず、原田はリード幅を縮めず、その後すぐ牽制死する。怠慢なプレー、あるいは注意力散漫なプレーと言わざる得ない、この一つのミスが少しずつ噛み合わせを悪くしていく。


二回表、伊東高校の攻撃。四番、五番打者に連続安打を許し無死一・二塁。二・三塁に送られた後、あっけなくスクイズを決められてしまう。しかし、まだ序盤。嫌な流れは作ってしまったが制球の定まらない相手投手を攻略するのは時間の問題だと高をくくっていた。そのチャンスは四回裏二死から訪れた。この回だけで三つの四球をもらい満塁。制球の定まらない投手が初めて感じるプレッシャー。この場合、打者の心構えとしてはベルト付近の甘いボールに絞って待っていることが重要だ。制球が定まっていないからという理由で、ウエイティングの気持ちでは甘いボールをみすみす見逃すことになる。ましてや、ストライクとボールがはっきりしているのだから・・・。打者絶対的有利の状況である。そんな絶対的有利な状況を7番鈴木丈久は、冷静に判断することが出来なかったと思われる。初球の直球をすっと見逃しワンストライク。このストライクが鈴木丈久に心理的に与えた動揺はその後の様子から伺い知ることが出来る。二球目の低めのボール球の変化球に手を出しツーストライク。三球目は高めに外したボール球の直球に手を出し空振り三振。見逃した初球の直球のストライクボールが甘く「しまった」という気持ちを生んだのか、はたまたワンストライクを取られたことで打ちに行かなければという追い込まれた気持ちになったのかはわからないが、どちらにしてもベルト付近の甘いボールだけ待っている状態ではなかったことは確かである。制球の定まらない投手を攻略する大きなチャンスを逃すことになった。


五回終了時、私はイラついていた。闘争心や気迫のかけらも見せず、緊張が選手の心と身体を支配していることにイラついていた。あれだけ振れていたバットも緊張が力みを生みスイングはとてつもなく鈍かった。闘争心をかき立てなければこのまま終わってしまう・・・。そんな『あせり』が私の中に出てきた。6回表の守備の時もどうやって選手たちの闘争心をかきたてられるのかをずーっと考えていた。私が集中力を欠いたそのイニングは重い追加点を相手に与えることになってしまう。失策による嫌な走者を出したにもかかわらず、タイムを取るタイミングを見逃してしまった。ピンチになってからタイムを取るはセオリーだが、一旦動き出した嫌な流れを止めることはなかなか難しい。だとすればピンチになる前にタイムを取って流れを少しでも止めておきたい。この場合、無死から失策で出した無死一塁というタイミングだ。選手の気持ちをかき立てるためにはどうしたらよいかということだけにとらわれていた私は試合の流れから頭を離してしまった。


六回の守備から帰ってきた選手たちに私は恫喝した。そのことで選手たちの奮起に期待した。言葉は悪いが『なにくそ』『くそったれ』という闘争心が生まれることに期待した。あれだけ制球を乱し、球数も増え、球威も落ちてくる後半、必ずチャンスがある。その最後の機会を生かすためにも受け身のままの状態では同じ事を繰り返してしまう。


七回裏、そのチャンスはやってきた。7番鈴木丈久が遊撃手後方に初安打を放つ。無死一塁。次の八番打者木村(二年:蜆塚中出身)にはバントのサインでウエイティングさせた。打者有利のカウントに絶対なる確信があった。実はその前の六回裏の攻撃は一死一塁からエンドランを仕掛けて失敗している。後半に入る前にエンドランは相手バッテリーに見せておきたかった。こちらが動いて流れを変えたがっているのは見え見えだが、実際に動いてみせることで後半に走者が出れば当然警戒心を強めるはず。中盤に入っても相変わらず制球が定まっていなかったこととエンドランに対する警戒を考慮すればより確実にカウント有利な状況を作り出すことが出来る。私はワンスリーまで引っ張ってエンドランのサインを出した。エンドランへの警戒心を逆手にとった戦略だ。成功すれば相手バッテリーへのダメージも大きく与えることが出来る。スイスイ投げてきた投手が後半勝ちを意識し出した所で、ほんのちょっと動揺を与えれば大きく崩れる可能性は十分ある。相手ベンチもまともに打たれた打球が一度もないわけだから、ピンチになっても交代することは出来ないだろう。このエンドランは勝つための賭だった。しかし、低めのボール球に手を出しツースリーのカウントにしてしまう。流れを引き寄せるべく、強引に続けてエンドランのサインを出した。ボールなら無死一二塁。ストライクボールなら最悪一死二塁。良ければ無死一二塁。しかし、そのどちらでもなく見逃しの三振。そして二盗失敗という、動いたことでみすみすチャンスを潰すこととなった。そしてこの攻撃は致命的になった。


9回裏、先頭打者は四番の山鹿(三年:磐田城山中出身)からだった。私は山鹿に『つないでいくしかないぞ』と声をかけた。山鹿は笑顔で『はい』と答えた。私はこの時、山鹿の野球観を肌で感じた。最終回、三点差、一安打で抑えられている絶体絶命のこの場面で山鹿は笑顔で打席に向かったのである。“大好きな野球を楽しんでプレーする”という山鹿の信条が見えた一瞬であった。
『楽しんで野球する』と言えば、すごく当たり前のような感じがする。大好きなことだから楽しくなければおかしい。戦後間もない頃、軍隊式の誤った指導理論が横行し、命令に絶対服従、血と汗と涙と根性の野球観が確立したと思う。私は、小さい頃楽しくて仕方がなかった野球が中学生になると苦痛を伴うようになったことを思い出す。キツイ練習が苦痛というわけではなく、恐怖とやらされ感が苦痛だった。楽しんで野球をするという感覚が失われた時期があった。今はトレーニングにしても技術にしても科学された野球理論で合理性が追求されている。つまり、昔と比べれば合理的にレベルアップしやすい環境は整っている。上手になれば楽しさも増す。試合に勝つ喜びにもつながる。これからの野球は『楽しんで野球する』ことを追求していく時代なのかもしれない。
最終回、一矢報いることもなく三者凡退で試合は終了した。完敗だった。手も足も出ないというより出させてもらえなかった。相手の気迫と必死さに屈した感じだった。私は悔しさというより屈辱感だけが残った。
この試合で引退した4名の三年生は、多くの後輩たちを引っ張り、チームをある一定の方向に導いてきた。『礼儀と秩序を重んじ、自ら考え、求めて行動する』というチームカラーを示してくれた。私は『結果は過程』という信条があるが、三年生にとっての結果はこの二年半の過程に表われていると思う。この二年半、一日一日積み重ねてきた過程こそ、今後の人生において財産になる。その手にした財産こそが、この二年半の結果なのだ。
試合終了後のミーティングで、部長の松本先生はうっすらと涙を浮かべて三年生への思いを言葉にして伝えた。松本先生はこの二年半、ノックを通じて選手たちと対話をしてきた。4人しかいなかったときもノックを打ち続けたのは松本先生である。その三年生に誰よりも勝って欲しいと強く願っていたのも松本先生だったと思う。三年生と最後の対話は握手だった。三年生には十二分にその思いは伝わったであろう・・・。
新チームがスタートする。新チームの合い言葉は『常笑軍団』に決まった。メンタルが相当強くなければできないことだと思う。一・二年生たちは自分たちにかなり高いハードルを課したといえる。しかし、それもこの夏の大会で自分たちのメンタルの弱さを痛感したからなのだと思う。もう二度と相手に屈する試合だけはしたくない・・・。それは選手たちも同じ気持ちであろう・・・。

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